02 希望の牧場
日常生活の中で予期せず自分の琴線に触れるものに出逢ったとき、
心臓をググッと掴まれたような衝撃と、その後、身体中の血管
をジワジワっと血が巡っていく感覚に襲われることがあります。
私が今年の始め、とある絵本の原画展で1冊の本を知ったときもそうでした。
なぁ、「牛飼い」って、しってるか?
牧場で、牛のせわして、くらしてる。
それが牛飼いだよ。かんたんだろ?
コピーライター・内藤 友貴の「私の一冊」。
その本の名前は「希望の牧場」です。
福島に実際にある牧場を舞台に、その牧場主と牛との暮らしを一人語りで淡々とつづっていく絵本です。語りかけるような文体と、ざらざらとした筆致で描かれる絵があいまって異様な説得力で見るものをグイグイ引き込んできます。
でも、あのでっかい地震のあとは、
かんたんじゃなくなった。
うちの牧場は、
原子力発電所の近くにあったからだ。
だれもが記憶にある「3.11」。
牧場が原発20キロ圏内の立ち入り禁止にあったがために大きく変わってしまった牧場の生活。本来であれば、牛は殺処分、人も退去しなければいけない場所で、牧場主が選んだ道とは?彼の牛飼いとしての信念が朴訥な言葉の端々から圧倒的なリアリティをもって伝わってきます。
原画展の展示室を出て、すぐにこの本を探して買いました。ふだん、絵本はもちろん、図録や関連の書籍もめったに買うことはないのですが、この時ばかりは迷わず買ってしまいました。いま改めて読んでみても、訴えかけてくる文だと感心しつつ、これぐらい影響力をもたらすようなコピーを書かねばと日々努力中の内藤でした。
2017.7.3
内藤 友貴
リレーでつなぐ「脇道堂書店」。
次回はこのコーナーのタイトルバナーのイラストをつくったデザイナーの久松さん、よろしくです!
公開日/2017年07月05日