04 ほらふき男爵の冒険
『人を喜ばせる為ならピエロにでもなる』
2015年12月某日。
来年度からの入社を前に呼んでいただいたオフサイドの忘年会で、
右も左も分からない僕に「コピーライターの仕事に大切なもの」としてとある先輩が教えてくれた心得です。
1700年代の終わりごろ。
そんな心得を知っていたかどうかは分かりませんが、
娯楽の少ないその時代、食事に招いた客人をとにかく喜ばせる為に
まさに道化になりきってホラを吹くおじさんがドイツにいました。
かの有名なほらふき男爵こと、ミュンヒハウゼン男爵です。
この本はそんなおじさんのホラ話を元に作られたものなので、
もちろん感動的な物語でもなければ、
教訓を含んでいるわけでもなく、
世界が違って見えるような発見もなければ、
言葉にできない読後感も残しません。
ページを開いて、しばらくアホなおじさんを笑って、閉じたらそれで終わりです。
死ぬまでに読むべき意味や価値のある本なのかと言われれば、多分違います。
それでも僕がこの本を「私の一冊」として選ぶのは
とにかく、読んでいてひたすら楽しいからです。
底なし沼に落ちそうになれば自分で自分の襟首を引っぱって持ち上げ、
頭をぶつけた時に目から飛び散った火花で銃に火をつけ、
舟底に穴が開いた時には尻で塞いで沈没を防ぐ。
いい感じに下ネタも挟みつつ真面目腐った口調で語られるウソ冒険譚は
「ちょっとどうかしている」としか思えないほど荒唐無稽で
小学生の頃に心を奪われたのはもちろん、大人になってからも実家へ帰って
ちょくちょく読み返す度にニヤニヤと笑わせてくれました。
人を喜ばせる為に語られた200年以上昔のホラ話が、今もまったく色あせずに笑える。
入社前、実家でこの本を読み返してその事実を思い出した時、
先輩の言葉をなんとなく理解できたような気がしました。
2017.7.18
坂口雄城
公開日/2017年07月19日