08 奇想の系譜
僕は日本美術が好きだ。
正確には、1冊の本との出会いで好きになった。である。
もちろん今回はその本のお話だが、そこへ至るつながりも少しお伝えしておこう。
元々学生時代のマイブームはポップアート。当時日本人で新進気鋭のポップアーティストといえば村上隆だった。村上隆はオタク文化をアートに昇華させたアーティストで、国内より先に海外で認められた“変わった芸術家”。そんな彼のインタビュー記事を読み漁っていると、ある時意外な名前を目にする。村上隆が敬愛してやまない人物は“日本美術史”研究家の「辻 惟雄(つじ のぶお)」氏だという。
ポップアート→日本美術???
僕はその頃日本美術に興味がなかったので、この繋がりに違和感があった…が、不思議と面白いなと思った。ここで出会ったのが村上隆が超オススメしていた辻氏の名著「奇想の系譜」という一冊である。
この本の初版は僕が生まれる前、1970年頃だ。当時は今のように日本画の展覧会なども少なく、日陰の存在だった日本美術を盛り上げようと書かれた本。内容に関して辻氏の言葉を借りれば「江戸時代におけるエキセントリックなイメージを特色とする画家の系譜をたどる」となる。
日本美術がエキセントリック?
地味でおとなしいイメージだった日本美術がエキセントリック(奇想)な世界だと。その絶妙なタイトルにも惹かれ、すぐさま探して購入した。
内容をざっくり言うと、発刊当時国内でもほぼ無名であった6人の奇想の画家(岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢蘆雪、歌川国芳)が図版とともに紹介されている。だけなのだが、、、僕にとっては衝撃だった。図版は巻頭以外全てモノクロ。それがまたかえってイマジネーションを掻き立てる。画家の数奇な生い立ちを交えた解説にも引き込まれ、読了後すぐに本物が見たくなり、京都(相国寺)や和歌山(無量寺)など実物がある寺を巡った。それ自体がまさにエキセントリックな体験だった。後にも先にもここまで自分を突き動かした本はなかったかも?と思うほど、人生を豊かにしてくれた1冊であることは間違いない。
※あえて画家の詳細は書かないでおきます。ちょっとでも興味があれば表紙をめくってみてください。
奇想の画家の作品は戦後の日本美術会で単に「異端」と捉えられて評価されず、大半が欧米のコレクターの手に渡ってしまった経緯がある。著者はそれが悔しかったとも書いている。主流は「王道」ではあるが奇想の画家たちが創り出したものは「異端」ではなく主流の中での「前衛」だっただけなのだ。
僕がこの本から学んだこと。
それは“食わず嫌い・思い込みをやめることの大事さ”。変な思い込みで日本美術へ勝手な壁を作っていた僕に別の入り口を教えてくれた。これは“視野を広げ、新しいことにチャレンジする”ことに繋がり、クリエイターとしても私生活にも活きている。そして、エキセントリックを体感する旅は僕のライフワークとして続いていくだろう。
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余談だが、最初に買った「奇想の系譜」は日本美術に興味を持っていた重富君にあげたのを思い出した。
ほどなくして彼から「京都で若冲見てきました!」と笑顔で言われて、なにやらすごく嬉しかったのを覚えている。
天国でも日本美術を楽しんでるんじゃないかな、多分。
2017.8.23
海瀬 亨
公開日/2017年08月23日