No.12 圧倒される気持ち良さ
学生の頃、なんとなく寝られなくて友だちも捕まらなくて、夜中の海にひとりでドライブへ出かけた。
2時間くらいかけて到着し、とりあえず浜辺に降りて散歩でもしようと思っていたのに、あまりに真っ暗で、駐車場のライトなんて点でしかなくて、怖くて車から降りられなかった。
友だちと勢いで何度か来たことがあって、その時も夜中で、お互いを海に投げ合ったりして楽しかった海なのに、ひとりだとこんなに怖いんだ。そして自分はこんなに怖がりだったのか。
せめて、と窓を少しだけ開けて潮の香をたっぷり含んだ風を取り込んでみたら、思いの外満足できて(と思い込ませて)、結局一度も車から降りずに帰宅した。
小者感半端ないなと自虐的な気持ちと、高揚感があった。
もう1回味わいたいと、その後も数回ひとりでその海に行って、道中イノシシをひいたりした。イノシシはそのまま走り去った。それも怖かった。(余談)
ジブリにもその怖さと高揚感がある。
スクリーンやテレビ越しのアニメなのに。
「風の谷のナウシカ」の毒の世界。
王蟲の赤い目。ナウシカを包んだ金色の触覚。
腐海。その地下にある浄化された空間。
現実には見たことがなくて、でもこの世界のどこかにだぶん似たような場所があるんだろう。
ナウシカの腐海の底は、もののけ姫のシシ神様のいるあの湖と同じ場所かなと想像してみたり。
あの水は絶対何かの屍や血なんかが混じってるだろうけど、綺麗って思うだろうし飲んだら美味しいんだろう。意外とそうでもないのだろうか。冷たいのか、ぬるいのか。
シシガミ様はなぜ人の顔してるのか。口角があがってほんのり笑っているのも怖い。
性別があるなら女だと思う。
ラピュタの肩に鳥を乗せたロボット兵は、どれだけの年月をひとりきりで動き続けてたんだろう。
穏やかな庭にいて、やさしい心を持っているように見えるけれど、それは人間からの視点であって、無機質なロボットは何も感じていないかもしれない。
そう思うと、ひとりで淋しかったんだろうかという感傷より、圧倒的に力が及ばない、心が通じないものと対峙する恐怖が強くなる。
千と千尋の神隠しで両親が豚になってしまうシーンは目を背けたくなる。
卑しい姿がとても悲しい。
もし自分の両親があの姿から元の姿になった時、自分は今までと同じ気持ちで接することができるだろうか。
そんなことまで思ってしまう、自分も悲しい。
この世には、自分の力が及ばないものが当たり前にたくさんあって、それに出会った時に恐怖を感じたり圧倒されて感動したりする。そういうものと遭遇したい。
ジブリにもそれがある。
だから、好きです。
ストーリはなんとなくしか覚えてなくとも。
※写真は沖縄県首里金城町の大アカギ
2020年11月4日
木原綾乃
公開日/2020年11月04日