No.24 nakamurawest
人に見えている/見えていない「世界」はほんと大きいし、そんな大げさなこと?と言われるかもだけど、ちょっとうえの世代が発生からズドーンと経験してきたカルチャー、の中のひとらがその「世界」をあとにすることが続き、少しヒリヒリしてるのが伝わってくる。こういうとき、ひとは偉業を語るが、そうじゃない。根っこからその世界で育ち、生きること・考えることに直結してるひとはとても多い。ぼくはまだ、その世代の友人から届くメールに返事をかけていない。
【1】助走/序奏
大昔は23の頃、イマイケで何かやろうよと、センパイの音楽セクトと演劇セクトから誘ってもらったことがあった。それぞれがそのメンツでやれそうなアイデアを持ち寄り、ぼくは適当なモチーフを聴かせたところ、「これは細野さんとコルトレーンだね」と。
「細野コルトレーン」。響きがカッコ良い。けどぼくには似合わない。「ジョン晴臣」。おそれおおいが、まだ少しは受け入れやすい。25年を経てそれぞれググると、なかなかくすぐられるインデックスが表示された。別々のパズルからピースを集め、はまらないのに惹かれる絵が現れる。まだまだそんなとこがあるから検索は楽しい。
ジョン、晴臣、コルトレーンはワードとしてなかなか効きがよく、先にググッた結果からは「土着と信仰・肉体とリズム」が想起される。厚めの本のタイトルくさいその1冊を3丁目の大型書店は6階のどの棚に収めるだろう。グーグルなら8ページぐらいまでのインデックス。少し読み応えがありそうだ。
【2】迷走/瞑想
令和5年になったとき、最初に見た言葉は、「安全運転のあなたがブラボー」という電光掲示板だった。午前0時0分。夜中の静かな道路で見上げ、動画に収めた。
初詣に向かう道中。コンビニでピッとやらず、水とかアイスとかナッツを買ってお金を崩す。とりあえず100円玉を20枚確保した。
ぼくが気にしていたのは「差」をつけないことだ。神社に着いておめでとうございます、おめでとうございます、おめでとうございます、と声をかけられながら本殿に向かうと、目の前に女の子が6人現れた。
ポッケから100円玉を6枚取り出し、「じゃ、いくよ?」と下から投げて礼をする。子どもたちはキャッチしそこねた分も拾って仲良くわけた。
初夏のまつり。神社隣のマイハピネスヨシヅヤの立駐では、三脚チームが名駅ビル群と幻想的な山竿提灯の対比!と、きばってる。その下ではちびっこらが顔面クギめったざしのアニメキャラのスマートボールを、キャッキャ楽しそうに打っていたりする。
このエリアは少し離れた別の神社に野菜を収めて祈り、1年かけて漬物にしたり、ここ?てとこに青果屋が残っていたり。ジャッキーという犬を連れた少年が、「ジャッキーチェンって知ってますか?」と、その名の由来を丁寧に教えてくれたりもする。ジョン晴臣氏の原点、スタジオ喫茶マンション「リバプール」もあった。クワナの石取祭のミニ版ぽいのも行われる。
(ただし、クワナほどリズムに「訛り」はない。ジョン氏曰く、静寂をやぶり、夜通し太鼓と鉦を打ち鳴らす、解放・ためらい・高揚・疲労・効用を得ないから。おっと!クワナはアフリカのどこかじゃない。桑名だ)
川を越えてニシビへ行くとまた違うのだが、現代の行政区画の影響もあるのかこれらミノジ界隈の信仰や風習を、ブラタモリセクトもアートセクトも丁寧な暮らしセクトもスピリチュアルセクトもなかなか手をつけない。唯一、「こころ旅」の火野さんがケツをプリプリさせてチャリオでさらっと駆け抜けたのが、印象に残る。
検索ボックスにワードを1、2発ぶち込んだところで「土着と信仰・肉体とリズム」ほどその世界と空気には触れられない。歩くしかないね。
【3】こーだ!/CODA/coda
9・19・29。9の付く日は西のゴールに向かわないといけない。1953年、パレードと偽り、公道233kmを使って開催されたやんちゃくれバイクレース。擁したライダーが1着でゴールできず、本田宗一郎は激怒したという。チーム成績は1位だったのにも関わらずだ。西のゴールに祀られる豊太閤は、ゴールゲートとされた大きな赤鳥居に腰掛け、いろんな意味でハママツ方面ににらみを利かせて、こういさめただろう。鳴かぬなら鳴かせてみせよう(知らんけど)。
9の付く日は西のゴールに「市」が立つ。靴下がメイドインどこかで客のおばちゃんとやりあい、「そんなんじゃぼく、ウソで商いしとることになる。さわってみ。メイドインジャパン、最高や」と奈良から来る行商おじちゃん。ツルハシの業者に頼んでるってひとから謎な商談もちかけられてたオモニムがつくる、くそうまアルタリキムチ、オイキムチ、太刀魚キムチ。辛くないのにひとくちでカーッとかスーッとなる、不思議なヤムニョムチキン。
親ゆびを使った鮮やかなミニナイフさばきでヤングコーンを甘みのあるヒゲから勧めてくるおっちゃん。焼きに芸術点が付く外国人ママさんが焼くみたらし。スプラッタでもなんでもなく、それがなりわいと魚をさばきまくるおばちゃん。そのおばちゃんをよいこにちゃんこして眺めるマルチーズ。乾物屋でよりどり3袋いくらを蟹一択で攻める少年。背後に立つお母さん。こないだは苺1パック700円を2パック800円にしちゃうぞ商法に乗っかった青年と目があったから、400円出した。おいしかった。
西のゴールの先には、「公園の父」が手がけた明治生まれの公園・神社があり、自然観察会が開かれる。こないだ初めて参加したところ、主催者2名に参加者4名。主催の方は「今日は多いですね」と嬉しそうだった。
樹木や葉、実などを見つめ、ついばまれた跡やタイミングから鳥たちの生き方を知る。ウグイスの地鳴きも聴き、プロファイリングや逆引きで季節を読むような新鮮な感覚を覚えた。ときおりクイズタイムもあったり、「この木は毒があるので憎たらしいご主人の箸に…」など、主催の方も参加者をほどよく、やさしく、楽しませてくれる。
参加者のあるおじさんは、お子さんが生まれたときに飼い始めた子ガメが30数年生きたので、研究機関に解体サンプルとして出そうとしたら奥さんに泣かれて改心したことを、おばあさんは散策中に会ったご友人が鼻にティッシュ詰めてたから鼻血と思ったら鼻水を止めてたこと、公園のホールで最近見た映画がとても楽しかったことを教えてくれた。主催の方は、この公園を観察のフィールドにするのが定年退職後の夢だったと語り、もうひとりの主催の方は、小さいころによく遊んだと公園の昔を懐かしんだ。公園には池のベンチに腰掛け、物悲しいメロディをギターとアンプを持ち込み、リバーブ深め・音デカめで弾いてるおじさんもいる。武将の末裔や大リーガーの先輩だと主張するひとも、出る。生まれたばかりのちっこいカモたちに大声でエールを送る3人組おじさんがいることは、みんな知ってた。
緑にふれ、鳥の声を聴き、クイズに答え、本当にどうでもいい話が途切れない。その日、公園にはある政治家さん団体が来てて、ぼくらに写真を撮りましょう!と声をかけてくれたが、全員キッパリ断った。気持ちよかった。センセーが場を離れ、主催がボソっとダーティーダズンめいたことをつぶやいたら、神社で笙と太鼓が鳴りはじめた。ぼくのなかのジョンと晴臣が蠢いた。
「nakamurawest」。
マンション名でも表示されるかと思いきや。グーグルもあなたも、世界を知らない。
2023年2月15日
近藤 たかし
公開日/2023年02月15日