No.4 奇跡や魔法がなくても、僕たちの世界は楽しい。


脇道未来予想図編集者/

 50年先の未来というと、どうしてもデジタル技術の発展具合を想像しがちです。しかし、個人的にはデジタルってそこまですごいか? と思わなくもないです。

 皆さんが想像する未来のデジタルってなんでしょうか? 空飛ぶ車でしょうか? ドームを覆うほどのプロジェクションマッピングでしょうか? どんなデジタルでもよいのですが、その中にプログラムが介在しないものは一つもないと思います。
「プログラム」……すなわち、人間からの命令によって機械を動かす技術です。
プログラムというのはいろんなことができますが、思ったよりいろんなことができません。プログラムの本質は「計算・演算」ですから、計算できないこと、数字で表せないことはまったく行うことができないのです。

 身近な技術を例にとって考えてみましょう。皆さんが今この記事を読んでいるブラウザのアドレスバー、右か左かに、南京錠のマークが表示されているはずです。そこには「この接続は保護されています」と書かれています。

 この保護、どのような仕組みで動いているかご存知でしょうか。

 調べると公開鍵/秘密鍵のような専門用語が出てくるので一見難しげですが、なんのその。中学数学の範囲である「素因数分解」である程度まで理解することができます。

 素因数分解とは、とある数がどんな素数によるかけ算の式で表せるかを解くものです。例えば18なら2*3*3、21なら3*7で表すことができます。
SSLの仕組みの中にはこの素因数分解の概念が組み込まれており、とある素数の掛け合わせを導くことができれば、以降のセキュリティは簡単に突破することができます。

 あれ? じゃあSSL化って全然安全じゃないじゃん! と思われたそこのアナタ。素因数分解の難しさを舐めてはいけません。例に出したのは2桁の計算だったので比較的簡単でしたが、例えば221なら? 444853なら? すぐに計算できるでしょうか? 実は素因数分解を効率的に行う方法は現在発見されておらず、世界にあるどんなにすごいコンピュータを使っても、しらみつぶしに答えを探す以外に方法がなく、それには途方もない時間がかかります。現在の一般的なコンピュータが使える最大桁数が約1844京までですが、1844京、つまり20桁の素数同士のかけ算の世界なんて、とてもじゃないですが私には想像がつかない世界です。

 このとんでもない素因数分解の仕組みも、「人間がまだ効率的な方法を思いつけていない」から、全世界のセキュリティに採用されているわけです。将来ピタゴラスの1000倍くらい頭の良い人が現れて「素因数分解なんてこんな方法があれば簡単に解けるよ」なんて法則が見つかってしまったら、とんでもないセキュリティ革命が起こることでしょう。

 つまり何が言いたいかというと、どんな技術も「人間」それ自身の発展なしにはどんなものも生み出せないということです。

 ChatGPTや画像生成AIを見ていると、自然に言葉を話したり、素晴らしい絵画を生み出しているように見えますから、ついついあんなこともできるだろう、こんなこともできるだろう、なんて考えてしまいますが、そんなことはないのです。
ChatGPTには俳句を読ませることも計算式を解かせることもできませんし、画像生成AIに「誰も知らない未来を描いて」と言ってもそんなものは人間の側が知らないのですから、AIが知るはずもありません。
ChatGPTも画像生成AIも所詮は「プログラム」ですから、人間ができる範囲でしか、うまくやれないのです。

 50年後の未来では、世界の秘密はどれくらい解き明かされているのでしょうか。新しい元素、新しい計算式、新しい文学、新しいアート……ノイエを作るのはいつだって人間です。奇跡も魔法もないけど、それはとてもすてきな福音と言えないでしょうか?

 最後に、銀河ヒッチハイクガイドの有名な「生命、宇宙、そして万物についての究極の答え」についての一節を引用して、このコラムを締めたいと思います。

「42だと!」ルーンクォールが叫んだ。「750万年かけて、それだけか?」

「何度も徹底的に検算しました」コンピュータが応じた。「まちがいなくそれが答えです。率直なところ、みなさんのほうで究極の疑問が何であるかわかっていなかったところに問題があるのです」

使用した生成AI:Microsoft Designer – Image Creator(DALL-E)
プロンプト:背景が宇宙船内部、大きなコンピュータの前に宇宙飛行士、宇宙飛行士は呆れながらコンピュータの画面を見ている、画面には42と表示されている、コミック風のモノクロタッチ

2024年7月10日
関根茉樹

公開日/2024年07月10日



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