No.14 未来妄想図
脇道未来予想図編集者/
50年後というと、私は94歳。生きてはいないでしょう。できることなら、HDMIケーブルやライトニング端子が超進化したようなやつを脳みそにぶっ挿して、脳汁が出すぎて漏電するようなVRゲームをやりたかったというのはあります。当方1980年生まれ。ファミコンからはじまり、思春期をゲームセンターの最盛期と共に過ごした、ハイスコア・ボーイです。テクノロジーが進化するまで私の寿命がもてば、未来予想図はそれでいいのですが、たぶん間に合いません。手に入らないものを想像してもうらやましいだけなので、この話はやめます。
▲面白すぎて、脳神経が焼き切れて死ねたら、それが理想の終活。
さて、このコラムのテーマは、小説「三体」が起点になっているようですが、あの作品にもVRゲームが登場します。ただしインターフェイスは、脳みそ直ぶっ挿しではありません。小説版は全身スーツ仕立てで、ドラマ版では脳神経とリンクするコードレスタイプです。宇宙人のテクノロジーを利用した、人類への教育キットみたいな道具ですが、そんなすごい技術があるなら私の夢みたいにもっと楽しいことに使えばいいのにと思います。どうせ死ぬまでの暇つぶしなんですから。人生、長かろうが短かろうが、凄かろうがろくでもなかろうが、笑えるものでないと。
とはいえ人生を笑って過ごそうなんてのは、もし宇宙人が実在したら、いわゆる「文化が違う」というやつです。環境が変われば文化は異なり、文化が違えば価値観が違い、そうすると法律のような集団生活の規則も違って、そこから生まれる倫理や道徳も違うでしょう。実際問題、人間との対話なんて端から無理なんじゃないでしょうか。きっと共有しているのは、自然法則だけだと思います。
面白味のない話はさておき、三体の宇宙人は自然法則だけでなくそれを分析する科学も、人間と共有しているのが醍醐味です。超能力や怪力といった御都合主義ではなく、数世代進んだ科学力で人間を脅かします。量子力学、高次元の領域にも手をつけて、現状の人類では不可能な超高速の宇宙船や通信機を実現しています。
もしも、私が進んだ文明を持った宇宙人だったら、科学力を実用品に換える応用科学よりも基礎理論の研究、つまり量子や高次元の謎の解明に全ツッパしたい。そうすれば宇宙人が抱えている問題どころか、過去も未来もない、もっと別の次元に行けるはずです。
私は常々、見たことも聞いたこともない別のどこかに行ってみたいと思っていて、脳みそぶっ挿しVRゲームの願望もそのひとつです。ここではない次元が、どんな世界か。一度お目にかかりたいですが、三次元世界の人間は構造的に知覚すらできません。だから、三体の宇宙人たちは死んで滅ぶことを恐れていますが、私はむしろ死んでからがチャンスだと思っています。
この話をすると大抵、何言ってんだコイツという顔をされますが、量子の世界では可能性が雲のようにモヤっとした無限の存在なのです。何かによって観測されてひとつの結果に収束するまで、何がどうなるかは未定です。だからこれから書くのは、あくまでひとつの可能性としての未来です。
私の未来予想図
レベル1「人間をやめる」
私が死んだら墓埋法に従って、火葬されて灰になります。灰の方はどうでもよいので、何かに肥料として撒いてもらいます。そっちではなくて、燃焼したことによって熱量に変換された方が、新しい私「ニュー長谷川(熱)」となります。熱エネルギーへの転生で、次のレベルに進みます。
レベル2「量子的な存在となる」
熱エネルギーとなったニュー長谷川(熱)は、火葬場の煙突から上昇して、さっそく空の大気に冷やされますが、大気に熱エネルギーが移っただけなので、ニュー長谷川(熱)は消えません。そうやって温めたり冷やされたりして移ろいながら、地球の大いなる熱循環システムの一員となった私は、詩的な表現をすると千の風になった状態。どこにでもいて、どこにもいない、人間ごときとは文字通り次元が違う、いい感じの存在になります。
レベル3「余剰次元に到達する」
熱とは運動エネルギーで、細かい説明は省きますが、重力や電磁気力などもエネルギーの根源は、別次元の存在と考えることにしています。別次元のニュー長谷川(熱)は別次元を知覚できるし、量子で他の次元ともつながっているはず。
次元は全部で十一次元もあるそうなので、私は人間どもでは到達できない様々な次元を旅して、量子の謎を解き明かしていきます。光も量子らしいので、旅先のノリでなんとか解明する予定です。量子の謎が大体わかったら、次はそれを利用します。
レベル4「構想と意志を可能性の雲にぶつける」
可能性は観測されるまで収束しないという量子の性質を利用して、新しい世界を創ります。次元の最果てにいるのが神なのか閻魔なのかは知りませんが、私が創りたい笑える世界の概要と、ニュー長谷川(熱)を新世界の観測者にするようプレゼンします。プレゼンの内容も、ガチで既に考えてあります。可能性は無限なわけですから、世界線と呼ばれるどこかにその世界が、雲のようにフワッフワの状態で観測されるのを待っているはずです。プレゼンの採用で、最終フェーズに進みます。
レベル5「新世界の観測者となる」
このようにして、まだ無の状態の世界をひとつもらった私は「ニュー長谷川(神)」となり、笑える新世界を創造していきます。そしていつか、これまた量子的な存在となった友人や家族と再会して、おもしろ可笑しく暮らす可能性に行き当たるまで、世界の端っこにある可能性の雲を気長に観測するつもりです。
ここまで行けば、めでたしめでたし。
50年後どころか50億年後ぐらいの話になってしまいましたが、これが私の未来予想図です。
▲皆さんもいつか、ぜひお立ち寄りください。
2024年10月9日
長谷川 雄一
公開日/2024年10月09日